LOGIN第十話 月下の涙
昼見世の時間、菖蒲は張りから外を眺めていた。
そして、誰かが通れば笑顔を振りまくが苦戦をしている。
「はぁ……」 菖蒲はため息をついていた。
「菖蒲姐さん……」 張り部屋の外から梅乃が声を掛ける。
「なんだい? 今は昼見世の時間。 何の用だい?」
「はい。 コレを持ってきました」 梅乃は、張り部屋の戸を少し開けて紙を中に差し出す。
「んっ? 何これ……ぷっ」 菖蒲が紙を見て吹き出した。
その紙は、梅乃が書いた菖蒲の似顔絵であった。
「なんだい? もう少し、上手に描きなさいな……」 菖蒲は笑っていた。
「へへへ……姐さんの笑顔が見たくて描きました」 梅乃は戸の反対側でニコニコしていたが、菖蒲には見えていない。
「でも、姐さんが笑ってくれたので良かったです♪」
梅乃の存在は、菖蒲や勝来にとっても『小さな、お天道様』 のようであった。
「梅乃……」 さっきまで、ため息をついていた菖蒲とは別人のように笑顔になっていた。
「……」 采は黙って、それを見ていた。
そして翌日の昼見世の時間、
「信濃、ちょっと来な」 采は、信濃を呼ぶ。
「はい。 どうしました?」
「お前に、二階の部屋を与える。 そこが、お前の仕事場だ」
采の言葉で、大部屋がザワザワとしている。
これは実質、信濃の昇格という意味が伝わった。
二階に部屋を与えられると言うことは、花魁または花魁に近い売上を上げている妓女の特権である。
三原屋には、玉芳以外に部屋を与えられていた妓女は居なかった。
売上の高い妓女が、夜の相手と酒宴の時だけ使う程度だったのである。
一般の妓女は、大部屋に仕切り板、現在のパーテーションを置いて営みを行っていた。 これが部屋を割り当てられるのは凄い出世である。
「付いてきな」 采は、信濃を二階に案内した。
「この部屋を使いな」 采が案内したのは、玉芳の使っていた部屋であった。
「この部屋……玉芳花魁の部屋じゃ……」 信濃は、ゴクリと唾を飲み込んだ。
「そうさ。 今日から、お前がトップだ!」 采はニヤリとして信濃を見る。
「私が花魁に……?」
「それは、これからのお前次第だ。 客も、環境も全てが変わる……それでも、やれるか?」 采は覚悟を試していた。
「やります。 やらせてください」 信濃の目が変わった。
「よし、今日からお前が看板だ。 そして、傍に勝来を置く」
そう言って、采は一階に戻っていった。
信濃は荷物を二階に運んだ。 それを勝来も手伝いに入る。
(これで上手く真意を誤魔化せた……) これは、采の長期に渡る変革の序章であったのだ。
「お前さんは、人が悪いな……」 文衛門は、采に言うと
「こうするしかないだろう……」 采はキセルに火を点けた。
そして、数日が経ち
「勝来、引手茶屋に行くわよ」 「はい、姐さん」
すっかり環境に慣れた二人は、仕事の相性も良くなっていた。
「通ります。 三原屋の信濃が通ります」 梅乃の掛け声が仲の町に響く。
しかし、違うことがある。 『花魁』の言葉が無かったのだ。
それは仲の町でも噂になっていた。
信濃の値段は数倍に跳ね上がり、花魁まではいかないが、それなりの金額になっていた。
しかし、現実は上手くいかなかった。
信濃の値段が跳ね上がっても、花魁の肩書が無い状態では
『ただ値段が高い妓女』 なのである。 それでは客に箔がなく、客は他の見世に流れてしまったのである。
しかし、今は この状況を打開できる策が三原屋には無かった。
(今は仕方ない……我慢だ) 文衛門と采には、計画があった。
そして三ヶ月が経ち、吉原は夏になっていた。
そんな時、 「勝来、来な」 采は勝来を二階に呼んだ。
「はい、何でしょうか?」
「私が、今までお前に新造をさせなかった意味が解るかい?」
采は小声で言った。
「すみません……解っていませんでした」 勝来は神妙な顔をしていた。
「お前には引込《ひっこみ》禿《かぶろ》をさせていたんだよ……」
引込禿とは、新造出しをせず花魁の教育をさせる『見世の隠し玉』である。
一般の妓女から花魁になっても、元を知っている客から見たら値打ちが知れ渡っている。
一般の客では手が出せないからこそ、花魁の値打ちが出る。
これは三原屋が赤字を我慢して、時を待った秘策なのであったのだ。
「私が……?」 勝来は、驚きを隠せなかった。
「玉芳も同じだ。 今夜、お前が花魁になる為の事をしてもらう」
采は、勝来に告げると一階に降りていった。
そして夜、勝来は二階の部屋に呼ばれた。
「よろしくお願いします……」 勝来の表情は硬かった。
これは『水揚《みずあ》げ』と言う儀式である。
遊女として働きだすにあたり、初体験のことを水揚げと言う。
幼い頃に禿としてきた梅乃や小夜なども、いずれは経験しなければならない。
勝来も未婚で経験が無い場合は、いきなり客と経験するより手慣れた者に経験するのが良いのだ。
下手な扱いをされて、妓女がトラウマになってしまうと仕事にならないからである。
見世は、この水揚げの仕事人を雇《やと》っているのである。
「じゃ、勝来……行っておいで」 采は、淡々とした口調で送り出す。
「失礼しんす……うっ―」 勝来は、言葉が詰まった。
勝来の案内された部屋は薄暗く、月明りさえ眩《まぶ》しいくらいであった。
その部屋の奥には、男性が正座をしている。
勝来の初めての相手は、初老の男性だったのだ。
「どうした? こちらへ……」 男性は、布団をポンポンと叩き、勝来を誘った。
「は、はい……」 勝来は布団に入り、仰向《あおむ》けのまま待っていた。
その頃、梅乃は菖蒲と話しをしていた。
「なぁ、梅乃……さっき来ていたのは『水揚げ屋』だろ? 勝来のかい?」
「水揚げ屋?」 梅乃はキョトンとしていた。
梅乃も聞きかじった事はあるが、実際に知るには早かった。
「それって、どんなの?」 梅乃は好奇心から、菖蒲に聞いていた。
「うん……まだ知らなくていいかな……」 菖蒲は苦笑いをしていた。
菖蒲も数か月前に、水揚げをしたばかりだったからだ。
「聞きたかったんだけど……梅乃から見て、私と勝来の違いって分かる? 同じ境遇《きょうぐう》で育ってきたのだけど、勝来は引込禿をしたでしょ?」
本来、まだ子供の梅乃に聞くような事ではない。 しかし、菖蒲は同じ環境で育ったはずの勝来との差を知りたかった。
これは、嫉妬や羨望《せんぼう》の一種であろう。 菖蒲自身が救いを求めているような言葉だった。
「わかります」 梅乃は小さく頷いた。
「それは何?」 菖蒲が食い気味に聞いてきた。
「それは……」 まだ子供である梅乃は、表現に困っていた。
「そうだよね……梅乃には、まだ言い表せないか……」
「すみません……」 梅乃は、上手く言葉に出来ない事を誤った。
「……」 少し離れた所で采は聞いていた。
この日、菖蒲の指名は無かった。
「菖蒲、今日も指名が入らないじゃないか……アンタ、何やってんだい。 指名が入らないなら、入るように考えな!」 采は、菖蒲に喝を入れていた。
「すみません……」
「ちょっと来な」 采は、大部屋の やり手の席に菖蒲を呼んだ。
「お前、梅乃に聞いていただろ? そんなに知りたいかい?」
「―っ」 菖蒲は、梅乃との会話を聞かれていたのを初めて知った。
「まだ梅乃は子供さ……上手く言えないだろうけど、聞いてどうなる?」
采は、キセルを吹かしながら言った。
「知りたかったんです……私と勝来の違いを……」 菖蒲は、目に涙を浮かべていた。
「違いは誰でもあるさ。 私とお前とだって違うよ」 采は諭すように話した。
「それは……」
「違うんだから、違うやり方をすればいいんだよ。 お前は優しい! 玉芳によく似ているよ……」
菖蒲は、玉芳に似ていると言われ、前向きな表情になるが、
「ただ、玉芳は玉芳。 お前はお前だ。 いつか、梅乃が言いたかった事が解るよ。 アイツは、まだ子供だ」
「解ったら、早く営業しておいで!」 采は、菖蒲を追い払うように仕事に向かわせた。
梅乃は、采と菖蒲の会話を遠くから聞いていた。
(姐さん、すみません……) 上手い言葉が見つからず、菖蒲の励ましになれなかった事を悔いていた。
菖蒲は、見世の外に出ていた。
三原屋の中から酒宴の声が聞こえる。
『グスッ』 涙をこぼし、空を見上げている菖蒲に梅乃が外に出て来て
「姐さん……すみません。 上手な言い方が出来なくて……」
「いいのよ。 ありがとう」
「ただ、この空を見ていると思うんです……」 梅乃は夜空を見上げた。
「どう、思うの?」 菖蒲は、梅乃の顔を覗き込む。
「夜の空って、月が綺麗に見える日もあるんですが、星の方が綺麗に見える時があるんです。 だから、菖蒲姐さんも大好きです」
「梅乃……」 菖蒲は涙が止まらなくなっていた。
その頃、三原屋の二階では
「さぁ、勝来 いくぞ」
「―痛っ」 苦痛に耐えている勝来がいた。
「よし、済んだな……」 勝来の水揚げの儀式が終わった。
しばらくすると、采が勝来の所にやってきた。
「しばらくは痛いだろうが、頑張れるな?」
「はい……」 勝来が表情を変えずに答えると
「今日は、早く休むんだよ」 采が伝えると、勝来は頷いていた。
勝来は服を着る力も入らず、涙でボヤけた月を眺めていた。
そして同じく、菖蒲も月を眺めていた。
二人の流した涙は、月の雫のように淡い夜に落ちていった。
第五十九話 椿《つばき》と山茶花《さざんか》明治七年 正月。 「年明けですね。 おめでとうございます」 妓女たちは大部屋で新年の挨拶をしている。すると文衛門が大部屋にやってきて、「今日は正月だ。 朝食は雑煮だぞ」 そう言うと片山が大部屋に雑煮を運んでくる。「良い匂いだし、湯気が出てる~♪」この時代に電子レンジはない。 なかなか温かいものを食べられることは少なかった。「まだまだ餅はあるからな。 どんどん食べなさい」妓女たちが喜んで食べていると、匂いにつられた梅乃たちが大部屋にやってくる。「良い匂い~」 鼻をヒクヒクさせた梅乃の目が輝く。「梅乃は餅、何個食べる?」 片山が聞くと「三つ♪」「私も~」 小夜も三本の指を立てている。「わ 私も三つ……」 古峰も遠慮せずに頼んでいた。「美味しいね~♪」 年に一回の雑煮に舌鼓を打つ妓女たちであった。この日、三原屋の妓女の多くは口の下を赤くしている者が多い。「まだヒリヒリする……」餅を伸ばして食べていたことから、伸びた餅が顎に付いて火傷のような痕が残ってしまった。(がっつくから……)すました顔をしている勝来の顎も赤くなっていた。梅乃たちは昼見世までの時間、掃除を済ませて仲の町を歩いている。そこには
第五十八話 魅せられてそれから梅乃たちは元気がなかった。玲の存在を知ってしまった梅乃。 それに気づいた古峰。 それこそ話はしなかったが、このことは心に秘めたままだった。しかし、小夜は知らなかった。(小夜ちゃんには言えないな……)気遣いの古峰は、小夜には話すまいと思っていた。 姉として、梅乃と小夜に心配を掛けたくなかったのだ。それから古峰は過去を思い出していく。(あれが玲さんだとしたら、似ている人……まさか―っ)数日後、古峰が一人で出ていこうとすると「古峰、どこに行くの?」 小夜が話しかけてくる。「い いえ……少し散歩をしようと思って」「そう……なら一緒に行こうよ」 小夜も支度を始める。 (仕方ない、今日は中止だ……) そう思い、仲の町を歩くと 「あれ? 定彦さんだ…… 定彦さ~ん」 小夜が大声で叫ぶと “ドキッ―” 古峰の様子がおかしくなる。 「こんにちは。 定彦さんはお出かけですか? 今度、色気を教えてくださいね」 小夜は化粧帯を貰ってから色んな人に自信を持って話しかけるようになっていた。「あぁ、采さんが良いと言ったらね」 定彦がニコッとして答えると、「古峰も習おうよ」 小夜が誘う。「は はい
第五十七話 木枯らし明治六年 秋。 夏が過ぎたと思ったら急激に寒さがやってくる。「これじゃ秋じゃなく、冬になったみたい……」 こう言葉を漏らすのが勝来である。「日にちじゃなく、気温で火鉢を用意してもらいたいわね……」勝来の部屋で菖蒲がボヤいていると、「姐さん、最近は身体を動かさなくなったから寒さを感じるのが早くなったんじゃないですか?」梅乃が掃除をしながら二人に話しかける。菖蒲や勝来も三原屋で禿をしていた。 少し寒くなったからといっても、朝から掃除や手伝いなどで朝から動いて汗を流していたのだが「そうね……確かに動かなくなったわね」菖蒲は頬に手を当てる。「せっかくだから動かしてみるか……」 勝来が薄い着物に着替えると、「梅乃、雑巾貸しな!」 手を出す。「えっ? 本気ですか? 勝来姐さん」梅乃が雑巾を渡すと、勝来は窓枠から拭きだした。「勝来がやるんだから、私もやらないとね~」 菖蒲も自室に戻り、着替え始める。「……」 梅乃は開いた口のまま勝来を見ている。そこに小夜がやってきて、「梅乃、まだ二階の掃除 終わらない? ……って。 えっ?」小夜が目を丸くする。そこには二階の雑巾掛けをしている菖蒲がいた。「ちょ ちょっと姐さん―」 慌てて小夜が止めに入る。「なんだい? 騒々しいね」隣の部屋から花緒が顔を出す。
第五十六話 近衛師団明治天皇が即位してから六年、段々と日本全体が変わってきた。両から円へ貨幣も変わり、大きな転換期とも言える。「しかし、大名がないと売り上げが下がったね~ どうしたものか……」文衛門が頭を悩ませている。少し前に玉芳が来たことで大いに盛り上がった三原屋だが、それ以降はパッとしなかった。「それだけ玉芳が偉大だったということだな……」 文衛門の言葉が妓女にプレッシャーを与えていた。 しかし、文衛門には そんなつもりも無かったのだが“ずぅぅぅん……” 大部屋の雰囲気が暗くなる。梅乃が仲の町を散歩していると、「梅乃ちゃ~ん」 と、声がする。 梅乃が振り返ると「葉蝉花魁……」「この前はありがとう。 一生の宝物だよ~」 葉蝉は大喜びだった。「よかったです。 本当に偶然でしたけど」「話せたこと、簪を貰ったこと……全部、梅乃ちゃんのおかげ」そう言って葉蝉は帰っていく。「良かった…… みんな、よくな~れ!」 梅乃は満足げな顔をする。「すまん、嬢ちゃん……君は禿という者かい?」 梅乃に話しかけてきた男は軍服を着ており、子供にも優しい口調で話していた。「はい。 私は三原屋の梅乃といいますが……」「そうか。 よかったら見世に案内してくれないか?」 軍服を着た男は見世を探していたようだ。「わかりました。 こちらです」 梅乃は三原屋へ案内する。「お婆……兵隊さんが来たよ」 梅乃が采に話すと、「兵隊? なんだろうね」 采が玄関まで向かう。「ここの者ですが……」 采が男性に言うと、「私は近衛師団の使いできました大木と申します。 短めなのですが、宴席を設けていただきたい」 男性の言葉に采の目が輝く。「もちろんでございます」 采は予約を確認する。「では、その手はずで……」 男性が去っていくと、「お前、よくやったー」 采が梅乃の頭を撫でる。「よかった♪」 梅乃もご機嫌になった。三日後、予約の近衛師団が入ってくる。 この時、夜伽の話は厳禁である。あくまでも『貸し座敷』の名目だからだ。相手は政府の者、ボロを出す訳にはいかない。この日、多くの妓女が酒宴に参加しているが「ちょっと妓女が足りないね…… どこかの見世で暇をしている妓女でも借りるか……」 采が言うと、「お婆、聞いてきます」 梅乃と古峰が颯爽と出て行く。それから梅
第五十五話 意外性 明治六年 秋千は新造として歩み出す。 この教育担当は勝来になる。「どうして私なのよ……」 勝来は不満そうだ。「みんな当番のように回ってくるのよ」 菖蒲が説明すると「姐さん……」 勝来は肩を落とす。「まだ良い方よ。 顔の識別が出来ないだけでしょ? 私なんか野菊さんだったんだから……」菖蒲は過去に千堂屋の野菊を教育していた。 馴染みの店であり、菖蒲にとって窮屈な毎日だった。「確かに、あれはキツいですよね……」「そうよ。 本当に傷物にでもなっていたら大変だったわよ」「姐さん、失礼しんす」 勝来の部屋に梅乃がやってくる。「梅乃、どうやって千が顔の識別が出来ないって分かったの?」 勝来が聞くと、「掃除していて班長の小夜じゃなく、私や古峰に報告をしていました。 禿服って同じだから見分けが付かなかったんだろうな~って」「なるほど……」「それで、姐さんたちは千さんの何を困っているのです?」 梅乃がキョトンとすると、「そういえば、何を困っているんだっけ?」 勝来がポカンとすると、菖蒲と梅乃はガクンと滑る。「つまり、勝来姐さんは初めての新造に戸惑っているんですね?」梅乃の鋭い言葉に、勝来は言い返せなくなっていた。「私たちみたいに接すれ
第五十四話 のっぺらぼう明治六年 『芸《げい》娼妓《しょうぎ》解放《かいほう》令《れい》』が発令されてから吉原が変わっていく。それは『遊女屋』と言われていたものが『貸し座敷』となったことだ。女衒などから若い娘を買い、見世で育てて花魁にしていったのが政府の方針で禁止となっている。 このやり方は“奴隷契約”となってしまうからだ。 過去にキリシタンとして日本に来ていたポルトガル人が奴隷として日本人を海外に連れて行き、これを知った豊臣秀吉が怒り狂って伴天連《バテレン》廃止をしたほどだ。 日本は奴隷廃止制度で吉原や花街に厳しい取り締まりをする。 これにより吉原全体の妓女不足、女衒などの廃業が慢性的となる。 そうなると、地方などの貧しい家庭にも打撃が来るようになる。 貧しい家庭は娘を花街に売ることで金が入ってくる。 そんな希望さえも失っていくが、人身売買は密かに続いていたりもする。「千《せん》……すまない」 「父様、母様……私、どこに行くの?」「お前が美味しいご飯が食べられる場所だよ……」こういう会話から少女は吉原に連れて行かれる。 これも親孝行だったのだ。 「今日から妓女として入る千だ。 お前たちより年上だが、同じ禿として働く」 采が言うと、そこには物静かな女の子が立っている。 「千です。 よろしくお願いいたします……」